【3階建てにエレベーターは無駄?】法定義務だけじゃない!「何階から設置すべきか」で物件の収益性が決まる理由

これからアパートやマンションの建築を計画されるオーナー様にとって、「エレベーターを何階建てから設置すべきか」という問題は、初期費用に直結する大きな悩みの一つです。多くの方が、まず「法律上の設置義務は何階からなのか」という答えを探されることでしょう。もちろん、法令を遵守することは事業の基本であり、非常に重要です。


しかし、その答えだけを基準に建物の仕様を決めてしまうと、10年後、20年後に思わぬ形で後悔することになるかもしれません。社会は常に変化しており、特に入居者のニーズは多様化しています。単に法律の基準をクリアしているというだけでは、長期的に入居者に選ばれ続ける魅力的な物件であり続けることは難しい時代になりました。


これからの賃貸経営で大切なのは、「法律で決まっているから設置する」という受け身の姿勢ではありません。「この物件の価値を最大化するために、エレベーターは必要か」という攻めの視点です。この記事では、法的な基準はもちろんのこと、将来にわたって高い収益性を維持するための、戦略的なエレベーターの設置判断について考えていきます。




【結論】エレベーターの設置義務、法律では「何階から」と決まっているのか?

では、まず皆様が最も気にされている法的な基準について、結論から明確にしておきましょう。エレベーターの設置義務を考える上で、基本となる法律は「建築基準法」です。



原則は「高さ31m超え」の建物


建築基準法において、エレベーター(正確には「非常用の昇降機」)の設置が義務付けられているのは、「高さが31mを超える建築物」です。これを階数に換算すると、おおむね7階建て以上の建物が該当します。つまり、6階建て以下の建物であれば、原則として建築基準法による設置義務はない、ということになります。

多くの方が「何階から」という疑問を持たれるのは、この「高さ31m」という基準があるためです。しかし、このルールだけを覚えておくと、重要な点を見落としてしまう可能性があります。



注意すべきは各自治体の「条例」


建築に関するルールは、国が定める法律だけではありません。各都道府県や市町村が、地域の実情に合わせて独自に定めている「条例」の存在が非常に重要です。

特に近年、高齢者や障がいを持つ方の円滑な移動を促す「バリアフリー」の観点から、独自の基準を設ける自治体が増えています。例えば、「3階建て以上の共同住宅には、エレベーターの設置を努力義務とする」といった条例や指導要綱が存在する地域も少なくありません。

「努力義務」は法的な強制力こそないものの、行政の指導方針であり、無視することはおすすめできません。建築を計画している土地の条例を事前にしっかりと確認することが、後々のトラブルを避ける上で不可欠です。




法的義務のない「3〜5階建て」こそが分かれ道。メリット・デメリット徹底比較

法的な設置義務がない、あるいは努力義務にとどまる3階建てから5階建て程度の建物。実は、このクラスの建物こそ、エレベーターを設置するか否かで、将来の物件価値が大きく左右される分かれ道となります。ここでは、設置した場合のメリットと、しなかった場合のデメリットを具体的に比較してみましょう。



エレベーターを設置するメリット


最大のメリットは、入居者の対象層を格段に広げられる点です。エレベーターがあれば、高齢者や足腰に不安のある方はもちろん、ベビーカーが必要な子育て世帯にとっても、上層階が選択肢に入ります。重い荷物を運ぶことが多い単身者や、一時的に怪我をした方など、あらゆるライフステージの人にとって住みやすい物件になります。

これにより、入居者募集時の競争力が高まり、上層階でも敬遠されることなく、安定した賃料設定が可能になります。長期的に見れば、エレベーターの設置コストを上回る収益安定効果が期待でき、将来的な売却時にも「エレベーター付き」という点が資産価値を押し上げるプラス材料となるでしょう。



エレベーターを設置しないデメリット


逆に、エレベーターを設置しなかった場合、これらのメリットはすべてデメリットとして跳ね返ってきます。まず、入居者のターゲットが階段の上り下りを苦にしない、体力のある若者などに限定されてしまいます。3階以上の部屋は「階段が大変」という理由だけで避けられ、空室のリスクが高まるだけでなく、賃料を下げないと入居者が決まらない、という事態にも陥りかねません。

特に、日本の社会全体の高齢化が進む中で、「階段しかない物件」は、10年後、20年後には今以上に厳しい競争にさらされることが予想されます。初期コストを削減できたとしても、長期的に見れば、空室や家賃下落によって、それを上回る機会損失を生んでしまう可能性があるのです。




「誰に住んでほしいか」で答えは決まる。ターゲット層から考える設置戦略


エレベーターを設置するかどうか。この問いの最適解は、法律やコスト計算だけで導き出されるものではありません。最も重要なのは、「この建物に、どのような人たちに住んでほしいのか」という、事業の根幹となるターゲット設定です。誰を主な入居者として想定するかによって、エレベーターの必要性は大きく変わってきます。



ケース1:ファミリー・高齢者向け物件


もしあなたの計画が、落ち着いた住環境で長く暮らしてもらうことを目指すファミリー層や、将来の住み替えを考えるシニア層をターゲットにしているのであれば、たとえ3階建てであってもエレベーターの設置を強く推奨します。

子育て世帯にとって、ベビーカーやたくさんの荷物を持って階段を上り下りするのは、想像以上の負担です。また、今は元気なシニア層も、10年後、20年後を見据えれば、エレベーターのない物件は選択肢から外れてしまいます。「長く、安心して住める」という価値を提供するためには、エレベーターは必須の設備と言えるでしょう。



ケース2:都心部の単身若者向け物件


一方で、主要駅に近く、利便性を最優先する単身の若者をターゲットにしたワンルームマンションの場合は、戦略的にエレベーターを設置しない、という選択肢も考えられます。この層は、階段の上り下りに対する抵抗が比較的少なく、それよりも少しでも安い家賃を求める傾向があります。エレベーターを設置しないことで建築コストを抑え、その分を家賃に反映させて競争力を持たせる、という事業戦略です。ただし、この場合でも4階、5階となると敬遠されるリスクは高まるため、周辺の競合物件の状況を慎重に分析する必要があります。



ケース3:付加価値の高い高級賃貸物件


家賃を高めに設定する、デザイン性や設備グレードを重視した高級賃貸物件の場合は、階数に関わらずエレベーターは設置すべきです。このクラスの物件に住むことを希望する入居者は、利便性や快適性を何よりも重視します。エレベーターがないことは、物件の格を大きく下げる要因となりかねません。単なる移動手段としてだけでなく、高級感を演出するデザインの一部としてエレベーターを位置づけることも重要になります。




気になる費用は?設置コストと維持コストの全知識


エレベーターの設置を具体的に検討する上で、避けて通れないのが費用の問題です。コストは、一度きりの初期費用(イニシャルコスト)と、継続的に発生する維持費用(ランニングコスト)の二つに分けて考える必要があります。



初期費用(イニシャルコスト)


エレベーターを新設する際にかかる費用は、主に「本体価格」と「設置工事費」で構成されます。エレベーターの大きさや仕様、建物の構造によって費用は大きく変動しますが、一般的な小規模の集合住宅用のものですと、おおむね400万円あたりからが一つの目安となります。もちろん、デザイン性の高いものや、大型のものを選べば、その分費用は上がっていきます。建築全体の予算の中で、この初期費用をどのように位置づけるかが、最初の大きな判断となります。



維持費用(ランニングコスト)


見落としがちですが、長期的な視点では初期費用以上に重要になるのが、所有し続ける限り発生する維持費用です。

まず、法律で定められた定期的な点検と、故障を防ぐための保守契約(メンテナンス)費用がかかります。これはエレベーターの安全を守るための必須費用で、年間30万円から50万円程度が相場です。加えて、エレベーターを動かすための電気代、万が一の際に駆けつけてもらうための遠隔監視システムの費用なども必要になります。

さらに、15年、20年と使い続ければ、ワイヤーロープの交換や制御システムの更新といった、大規模な修繕も必要になってきます。こうした将来発生する費用もあらかじめ見込んで、長期的な資金計画を立てておくことが、安定した賃貸経営には不可欠です。


エレベーターの専門家は、単に製品を売るだけでなく、こうした長期的な視点に立った運用計画まで含めて相談に乗ってくれます。もしあなたがエレベーターの設置だけでなく、その先の運用まで含めた最適な計画を立てたいと考えているなら、専門知識を持った技術者たちの世界を覗いてみるのも一つの道かもしれません。

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まとめ:エレベーターは「設備」ではなく「戦略」である


エレベーターを「何階から設置するか」という問題は、単なる建築上の仕様決定ではありません。それは、あなたの賃貸経営の未来を左右する、非常に重要な「戦略的判断」なのです。


法律上の基準や初期コストだけを見て「義務がないから設置しない」と決めてしまうのは、あまりにも短期的な視点かもしれません。大切なのは、「誰に住んでもらいたいか」「10年後、この物件は地域の他の物件とどう戦っていくのか」という、長期的で明確なビジョンを持つことです。

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